インタビュー:会田誠

インタビュー・写真: アンドレイ・ボルド

 

変態、風変わり、暴力、グロテスク ― 「会田誠」のGoogle検索結果は彼が論争とは切っても切れない作家であることを端的に示している。

今日において最も重要かつ影響力の高いアーティストである会田誠とのインタビューが行われたのは、Googleマップでは決して到達することのできない新宿歌舞伎町の奥深い一角で彼が始めたボロボロの小さなバー「芸術公民館」だ。会田に導かれて細長い階段を二階まで上り、薦められた酒を片手にさらに上の階の畳の部屋へと向かう。会田は酒を一口すすり口を開く。

「それじゃ......」

アーティスト・会田誠

アーティスト・会田誠

  • AB 東京芸大を卒業していますが、大学教育で何か得たものや、自分に影響を与えたものはありましたか?
  • 会田 大学の最初の四年間は油絵科ですけど、僕の時代は自由放任だったので、四年間は何も教わってないです。その代わりいろいろ自分で試したりしたんですけど、あまりに何も教えてくれないことに不満を持って、大学院では一番お堅い、技法材料研究室っていう古典技法を研究するような、一番堅いところをわざわざ選んで、その二年間は古いヨーロッパの油絵の描き方を勉強するようなところにいました。それは、まあ、実になってます。
  • AB 影響を受けた人物は?
  • 会田 おそらく高校時代に三島由紀夫から受けた影響が一番大きいです。彼は小説家ですけど、芸術とは何かというのは大体僕は高校時代に三島から教わって、そこが僕がアンバランスな理由でもあるんですけど。あの人は多面体でね、僕は三島は切腹しただとか右翼だとかじゃなくて、もっと複雑で、いろんなところから学べる総合的な芸術家だと今でも思ってます。小説と評論、エッセイですけどね。あと僕は高校時代美術家になる気は全然なくて、むしろ小説家になりたかったから。
  • AB 文学からの流れで、コンセプトが先にあってその後から絵画ができてくるのですか?
  • 会田 僕は子どもの頃から、漫画家に、ストーリー・テラーになりたかったんですよね。でもその才能がないことが20代の初めぐらいにわかって諦めたんですけれど。僕は絵描きになりたいと思ったことはないんですが、子どものころから物を写実的に描くことだけは好きでもないのにできたんですよね。やりたいことと持ってる才能にズレがあって。それでこんな人間になってます(笑)
  • AB 何か刺激を受けるものはありますか?
  • 会田 なんだろう。うーん・・・今はツイッター見てるだけですね。今年になってからの生活ですけど、自分の作品を作り、疲れたり飽きたりしたらツイッターを覗いて。でもツイッターは地震が起きて以降、人々のすさんだ心を映す鏡になってて。今年になってからツイッターか自分の絵を描くか、この二つしかやってないですね。僕も書くけど、人のを読んでね。今年は僕の人生にとって特別な時で、基本的に籠もって、あまり外部からの刺激を受けずに、ひたすら作らなきゃいけない年なんで。だから外部からの刺激はツイッターだけにしようと決めたんです。ほんとは山とか登ったりしたいんですけどね(笑)趣味じゃないけど、アウトドアとかに飢えてるんですけど、今年はできないですね。
  • AB 日本人は一般的に集団行動を好みますが、それと同時に自分は特別でありたいというか、自分だけのものを見つけたいというような願望も持っていますね。その二つの間のパラドックスをどのようにお考えですか?
  • 会田 興味深い質問ですね。そのような質問をされるの初めてですね。僕は社会の中で、子どもの頃から今に至るまで変人で、エキセントリックで、一匹狼みたいな、そういう自己認識は子どものころからずっとあるんですよね。けれど僕はたまたま新潟っていう農村的なエリアで生まれたこともあって、それと別に日本の農耕民族的、村社会的な、村人の一人っていうメンタリティも、同時に強いんですよね。その個人主義と集団主義のパラドックスっていうのは多分まさに僕は典型的に強いタイプだと思いますね。これは多分死ぬまで解決せず一生終えるんだと思いますね。
  • AB パラドックスの中で自分を発揮するということを考える時に、なぜパラドックスを打開しようとしないのかも興味深いです。たとえば日本人は外から取り入れたものの性能を向上させることには長けているのに、なぜ自分自身を向上させようという発想にはならないのでしょうか。
  • 会田 ええ?(笑)一言で簡単に答えちゃうと「百姓根性」ってことだと思うんだけど、(通訳に向かって)君これだけペラペラ英語が喋れるんだから、「百姓根性」を英訳してごらんよ(笑)
  • 通訳Farmer mentalityかな?でも、百姓根性っていうのはようするに何でしょう?
  • 会田 まあとにかく被支配者で、支配されることに慣れていて、だけどずるいっちゃずるいんだよね。支配されることで恩恵も受けてるんだよね、多分。そういう日本社会が千年くらい続いていて。DNAに染みこんでるっていうのは科学的には言いすぎだけど。

Interview-Makoto-Aida-Bar-1

  • AB 観客を挑発することと作品自体の芸術的価値ではどちらが上になるのでしょうか?挑発そのものを目的に絵を描くことはありますか?
  • 会田 挑発的な作品の場合ほど芸術的なクオリティーを高めて、その関係が50/50になるようにしようとしてますね。
  • AB 会田さんは現代美術に特別関心がある訳でもない人にも人気があり、カルト的な信奉者たちもいる印象がありますが、それについてはどうお考えですか?
  • 会田 日本は欧米と違ってアートを買う上流階級というのが確固として確立していなくて、そもそもそういう人たちに作品を作るというモチベーションが全体的にない。ということもあって、ハイ・ソサエティにのみ自分の表現を見せることができない。日本で表現を続ける限り意識の高い美術に詳しいほんの一部のお金持ちを相手にしていては活動が成り立たないんですよね。なのでサブカルチャーが好きな、別にお金を持っていない若者もお客様として設定しないと活動にやりがいがないというかな。お金とは関係ない。つまり僕のエロい絵を見て「わーい会田さん好き」っていう人は別に現物の高ーい100万とかするやつ買ってくれる訳ではないから。見てほしいからね、金とか度外視して。これちょっと日本の特殊事情かもしれない。
  • AB 最近の日本ではポップカルチャー、芸術ではない文化活動の方が顕著に伸びてきていると思うんですけれども、これからの日本の芸術作品において、そのような場所から要素をとってきてそれを作品にするということはもっと増えていくのでしょうか?
  • 会田 外国の方は日本のアニメを作ったりゲームを作ったりする人達のこれからの変化をまずは注目した方がいいと思います。僕とか村上隆さんとかじゃなくてね。日本はこれからもしかしたら暗い歴史に入ってくるかもしれないけど、まあ腐っていくかもしれないけど、それも含めてこれからも面白い変化が起き続けると思います。オタクカルチャーというものが、ある意味で黄金期、ピークを超えたんだよね。でもこれからの腐り方も面白いと思うから注目すべきだと思う。
  • AB 実際、海外においてはゲームを作っている人や漫画を描いている人たちの方が日本の芸術家よりは名が知れていますね。
  • 会田 それは正しいと思う。僕とか村上隆さんとか、日本の文化は今こうなってて、西洋を中心としたアート・ワールドとの関係性で物を作っていく人は今後も頑張って作っていくけども、主戦場は僕でも村上隆さんでもないですよ。やはりオタク、サブカルチャーを参考にして西洋の枠組みのファイン・アート、芸術っていうものをどう関係づけるかということを理知的に考えて動いてるちょっと特殊な人種であって、僕は変わったことをやらざるをえない仕事だと思ってますよ。
  • AB 村上さんとの関係についてお聞きしてもいいですか。
  • 会田 ええとー......二十秒待ってください。二十年ぐらい前はわりによく顔を合わせてました。最近はめったに、二年に一度くらいしか会わないですね。国際的なアート・ワールドの中で、マラソンにたとえれば、あちらはトップ集団で、僕は第二集団か第三集団で、長いストレート・コースじゃないと村上さんの背中も見えないくらい引き離されてるという自覚はありますよ。ただ村上さんは僕にとってはいてよかった人で、はっきり言って村上さんに反発というか違和感があって、それがこちらの原動力にもなってるし、簡単にいうと僕としてはいい関係です。村上さんがいてよかったと思ってます。追いつきたい、というかあの人と違うルートは何かないか、ということを探りたかったりもするわけだし。先に走っていってる村上さんがいて僕はラッキーですよ。だから嫌いとか、いなきゃよかったという感情よりは、むしろ感謝が。だからといってフォローしたい訳ではない、かもしれない。微妙です、ほんとに。村上さんが会社をやって一緒に作る人がいっぱいいることもあるけど、圧倒的に物量的に差がつけられてることは認めています。僕は基本的にたまにしか、直前にしか、人に頼まず、あちらはクーンズとかダミアン・ハーストとかの工房制をとって、資本主義アートのど真ん中に突っ込んでいく、というすごいやり方やってるじゃないですか。成果として太刀打ちできないと思ってますよ。やっぱりショウはショウだからね。展覧会自体で負けてると思ってますね。やっぱり物質の量とかあるよ、うん。彼らはインターナショナルで成功してて、僕がそんなに成功してないのは、こっちにも成功してない理由があるっていうか。「不当に俺は注目されてない」って苛立ってたりはしてないと思う。ごめん、なんかぐじゃぐじゃ言った(笑)

Interview-Makoto-Aida-Bar-2

  • AB 村上さんは日本の文化を用いて西洋のマーケットに売り込んでいくイメージがありますね。会田さんは日本人の要素、あるいは日本的な要素とは何だと思いますか。
  • 会田 日本的な要素、それには昔から興味を持って仕事している。でも日本の要素は真面目に考えるとなかなか複雑なんだと思います。日本はユーラシア大陸から来た民族と太平洋沿岸を動いてた海の人たちのミックスの民族で、そのことをよく考えますね。日本人は単一民族みたいに言われたりするけど、ほんとはそうじゃなくてものすごく混ぜ混ぜな民族で、コリアンより混ぜ混ぜなんだと思う。コリアンは日本に比べれば単一民族に近い。そこらへんが僕の作品の主題です。日本的な要素が確立してあるというより、もやもや、ぐちゃぐちゃしてますよ。そこが僕は魅力だと思ってて、一言で言えないと思ってるんですよね。
  • AB ニューヨークで生活して何か変化したことはありましたか。
  • 会田 コスモポリタンを諦めた(笑)
  • AB どのくらい住んでいたんですか?
  • 会田 8ヶ月くらい。もう中年だったからね、30歳、いや、35?ま、でも行ってよかったと思ってますよ。僕の欧米へのアゲインストな態度は行く前も行ってからも基本はそんな変わってなくて、ただ現物を見たことで微調整は起きた。言葉にするのは難しいな。
  • AB アンチ欧米的な態度はどこから?
  • 会田 反米っていうのと親米っていうのは戦争が終わってからずっと日本は両方抱えたまま揺れ続けてるんですよね。僕も三島も誰もみんな。そういう国民なんですよ。アメリカとの関係は濃すぎるくらい濃いんですよね。地政学的にそうなっちゃった。日本っていう国とユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカっていう国は、国の成り立ちが極端に違うよね。不思議な関係だと思うなあ......意見があるわけじゃない。
  • AB Chim↑PomのエリイちゃんとはChim↑Pomの結成前から知り合いですよね。
  • 会田 僕の展覧会に女子高の制服のまま見に来ていて、可愛かったから声かけた。
  • AB 会田さんは若いアーティストの才能を見つけて育成するような関係を築いているようにも見えますが、意識的にそうしているんですか?
  • 会田 僕は若い才能を見つける特殊な眼は全くなくて、ただやる気があるやつが僕を利用できるかなと思って寄ってくるやつの中に一部成功者が出てくるだけです。僕は村上隆さんより敷居が低い、使いやすそうなステップなんですよ。
  • AB 作品のスタイルとして絵画もありつつ、パフォーマンス的な要素を持った作品もありますが、どちらを使うか自分の中で基準はあるんですか?
  • 会田 うーん、何でしょうね。ちょっと待って(笑)僕はビデオアーチストという意識はないので、僕のビデオ作品は大体展覧会でもおまけのつもりで作ることが多くて、でも場合によってはそっちの方が人気が出ることもあるんだけれど、あまりビデオは頑張りたくないから自作自演が多くて、というぐらいなことです。
  • AB 奥様の岡田裕子さんも芸術活動をしていますが、ライバル心を感じたりはしますか?作家同士どのように共存しているのでしょう?
  • 会田 まあ、この結婚は失敗ですと(笑)本当は僕をサポートしてくれる、マネジメントしてくれる人と結婚すべきだったと。でもまあ、こうなってしまったので仕方ない。諦めた。それならば妻が僕の収入を超えることを望んでるけれど、悲しいことに彼女はアーティストとしてなかなか儲けられなくて、もっとアーティストとして資本主義的にサクセスしてほしいと願ってます。そしたら息子の教育とかもっと僕が負担しますよ。今のは冗談ですけれど、アーチスト同士の結婚は経済的には不利なことありますけど、気が楽なのはいいことですね。
  • AB 三潴さんとの関係はどうですか?
  • 会田 まずは悪くないです(笑)僕は三潴さんとは芸術の話を真面目にしないようにしてます。三潴さんは勿論アートの理想というものがあると思いますけれど、彼はビジネスをする人で、僕も三潴さんとはビジネスの関係だと思っているので、アートの理想の話をしないようにしてます。理想同士はぶつかることもあるので。僕はコミュニケーションのほとんどを担当のスタッフとしていて、彼女がいなかったら僕は一日たりとも生きていけない。
  • AB もしも芸術家でなかったら何になっていたと思いますか?
  • 会田 バーのオーナー(笑) もし僕がアーティストじゃなかったら毎日このバーに来てます。

* * *

通訳: イズハラ・チサコ

翻訳: タムラ・マサミチ

会田誠・個展『天才でごめんなさい』森美術館

Special Thanks: 日下恵理子&藤城里香